もしかして、歯周病かも・・・・

「歯を磨くと血が出る」 「起床時に口の中がネバネバする」 「歯ぐきが赤く腫れている」 「歯ぐきがむずかゆい」 「口臭が気になる」 「歯がぐらつく」 「歯が長くなった」 「歯と歯の間に物がはさまる」 「硬いものが噛めない」 「歯ぐきを押すと膿が出る」

1つでも心当たりがあったなら、歯周病にかかっているかもしれません。

歯周病ってどんな病気?

歯周病はその名の通り、歯の周りにおこる病気です。
口の中を見たときに歯の周りには歯ぐき(歯肉しにく)がみえますが、さらにその内側には歯の根っこ(歯根しこん)と骨(歯槽骨しそうこつ)が隠れています。歯根の表面にはセメント質という層があり、歯槽骨とセメント質は無数の線維(歯根膜しこんまく))でつながっています。歯根膜がしっかり支えてくれていることで、歯は抜け落ちずにいます。
むし歯が歯そのものに破壊が起こる病気に対し、歯周病ではこれらの組織が破壊され、最終的には歯がぐらつき、抜け落ちてしまいます。

歯周病はむし歯と違い、ある程度病気が進行するまで自覚症状がほとんどありません。
痛みが出ることも少ないため、何となくおかしいなと思いながらもそのままにされがちで、「むし歯の痛みで歯科医院に行ったら、実は歯周病はもっと悪い状態だった。」などということもよく目の当たりにします。
このような特徴があることからも、歯の病気というと、しみたり痛んだりしやすい「むし歯」のイメージの方が強いかもしれません。
しかし実際はどうでしょう?
実は、歯周病は「世界で一番かかっている人が多い病気」としてギネスブックにも認定されており、日本人の40歳以上のなんと約8割の人がこの病気にかかっているとも言われています。

それだけの多くの人がかかっている歯周病。その原因は何なのでしょうか?

何が原因?

歯周病の一番の原因はプラークだということが明らかになっています。
プラークとは、細菌が歯の表面に蓄積した結果つくられるもので、いわば細菌にとっての家のようなものです。プラークには、たった1000分の1グラムの中に1億を越える細菌が棲んでおり、この中は細菌がむには非常によい環境で、歯周病の原因になる細菌も活発に働くことが出来ます。

歯周病は、このプラークの中の細菌によって引き起こされる感染症の一種です。

感染症とはインフルエンザなどと同じで、細菌やウイルスが身体の中に入り込んだり、表面にくっついたりすることで引き起こされる病気ですが、それらの細菌やウイルスを取り込んだら、すべての人が病気を発症するかというと、そうではありません。

歯周病の原因菌+様々な要素が組み合わさって、初めて歯周病が発症します。

どんな時にかかりやすい?

では、歯周病発症にはどのような因子が関係しているでしょうか?

1.環境が関係する因子

・喫煙
・口の中の清掃不良
・プラークの付着量
・ストレス
・食習慣(時間、回数、バランスなど)
・定期検診への受診の有無   など

また、プラークが溜まる原因となる歯に合っていない被せ物も含まれます。さらに口呼吸(普段口で呼吸している)の習慣がある場合も、口の中の粘膜や歯ぐきが乾きやすくなり、感染を起こしやすくなるのでここに含まれます。

2.その人自身が関係する因子(宿主因子)

・年齢
・人種
・糖尿病
・歯の数
・白血球の機能
・遺伝 など

普段あまり歯を磨いていなくても、歯周病やむし歯にかかりにくい人がいます。その理由の一つには、生まれつきの私達の体の特徴があります。たとえば、体を守る防衛軍の役割をしている白血球などの力、すなわち免疫機能めんえききのうの違いも関係しています。

このように、歯周病の原因菌がいることに加えて、上記の因子が重なり合う事で歯周病を発症する危険性が高まります。
特に口の中の清掃不良に加え、喫煙などの生活習慣、過度のストレスや体調不良による体の抵抗力の低下などが重なると危険度は一層高まります。
逆に、たとえ全身的な病気(糖尿病など)を抱えていたとしても、規則正しい生活習慣は他のリスクを低減させ、歯周病の発症を抑える事にも繋がります。
また、生まれつき歯周病にかかりやすい体質の方もいますので、自分の体についての情報を知っておくことも大切です。

これらの因子の中でも喫煙と糖尿病は歯周病の発症・重篤化に大きく関係する因子です。

喫煙

歯周病に限らず感染症にかかる、かからないには体の抵抗力(免疫力)が大きく関係しています。タバコに含まれる一酸化炭素やニコチンは体の酸欠・栄養不足を引き起こし、結果的に抵抗力を下げる原因となります。
また、血流が減ることで、歯ぐきの腫れや出血が起こりづらくなり、患者さん自身が歯周病にかかっている事に気付きづらくなります。
歯にこびりついたヤニは、歯の表面をざらつかせ、細菌が張り付きやすくなります。
さらに問題なのは、喫煙している場合たとえ歯周病治療をしたとしても、その効果が現れづらく、治りが悪いということが分かっています。

糖尿病

糖尿病ではからだを守る免疫機能(抵抗力)が低下します。また組織の代謝異常や血管が脆くなることで血液の循環が悪くなり、それが歯周病の発症・進行に影響を与えます。
その結果、糖尿病があると歯周病関連細菌に感染しやすくなり、一度感染すると、歯周病が重症化しやすくなります。
これらの影響がある事から、喫煙と糖尿病歯周病の二大危険因子の一つに数えられています。

歯周病と全身とのかかわり

歯周病を患っていると、他の様々な病気にかかる危険性も高めるということが明らかになっています。

1.脳卒中のうそっちゅう狭心症きょうしんしょう心筋梗塞しんきんこうそくのリスク増大

歯周病菌は歯ぐきの中の毛細血管に入り込み、全身に行き渡るということが研究から分かっています。血管内に入った細菌は血管の内側にとりつき、今度はそこでプラーク(アデローム性プラーク)を形成します。その結果血管が細くなったり、血管の内側に傷がつき動脈硬化が起こり、最悪の場合血管が詰まり破壊されます。

2.感染性心内膜炎かんせんせいしんないまくえんのリスク増大

血管内に入り込んだ細菌が心臓の弁や内膜にとりつき、それが原因となり心臓内部で炎症を引き起こします。

3.糖尿病の悪化

歯周病による炎症によって生じた物質が血管を通じて全身に回ります。その結果、糖濃度を下げるホルモン(インスリン)が作用しにくくなり、糖尿病の悪化に繋がることが分かっています。

4.低体重児出産、早産のリスクの増大

歯周病菌や炎症で産生された成分が血液の中に入り込み、血管中でプロスタグランディンという物質が作られます。
プロスタグランディンは子宮収縮を起こす妊娠促進剤などにも含まれるもので、その影響で早産のリスクが高まります。
また泌尿生殖器での病原菌の増加を助けることにもつながり、それが胎児の成長を妨げるとも言われております。

5.肺炎のリスク増大

今や三大死因の一つに数えられている肺炎。その中でも6割から8割は誤嚥性肺炎ごえんせいはいえんが原因であるといわれておりいます。
高齢になってくると気管に蓋をする弁の働きが鈍り、普段は閉じているはずの弁が閉じきらなかったりすることで、口の中の細菌が気管支や肺の方に流れていきやすくなります。その結果肺炎を発症します。
口の中に病原菌が多ければ多いほど、このリスクは高まるということが研究でも明らかになっております。

歯周病の進行過程

前述したとおり、歯周病はプラークが原因で起こる病気ですが、具体的には歯と歯ぐきの境目にある溝(歯肉溝しにくこうとよびます)にプラークが溜まることから始まります。
歯周病には大きく分けて、歯肉炎しにくえん歯周炎ししゅうえんというものがあります。

1.歯肉炎しにくえん

歯周病の初期の段階では炎症が歯ぐきだけに限局し、歯ぐきが赤くはれたり、ブラッシング時に容易に出血したりします。また、歯ぐきがはれることで健康時よりも歯肉溝が深くなります。これをポケット(歯肉炎の場合は仮性ポケット)と呼びます。
この段階では、感染が深くまで達していないため、プラークをしっかりと除去し清潔な状態を保つことで、歯ぐきの引き締まった健康な状態を再び取り戻すことができます。

2.歯周炎ししゅうえん

歯肉炎がさらに進行した状態です。この段階では歯ぐきの腫れや出血だけでなく、歯と歯ぐきの境目の部分が壊れて溝が深くなり、ポケット(真性ポケット)が形成されます。より深いところまでプラークが入り込み、歯ぐきだけでなく歯槽骨、セメント質、歯根膜、と歯を支えている組織すべての破壊が起こります。
症状としては、歯ぐきの腫れや出血に加え、支えがなくなることで歯がぐらぐら揺れるようになり、ポケットからの排膿や口臭などもみられるようになります。また歯ぐきの炎症が急激に生じると、強い腫れや痛みを伴うことがあります。
一般的にはその進み具合から軽度・中等度・重度に分けられます。

歯周病の治療

前述しましたとおり、歯周病は細菌の感染が大元の原因です。そのため歯科医院で行われる歯周病治療は、それらの細菌の除去を目的に行います。具体的にはプラークや細菌の住処になる歯石の除去がメインの治療となります。

歯周病治療の流れ

医院の流れの表を載せる。

1.歯周組織検査

まずは口の中のどの部分に、どの程度の歯周病があるのかを検査します。むし歯と同じで全部の歯が歯周病のこともあれば、一本のみのこともあります。また一本の歯の中でも手前側は健康で奥側は歯周病ということもあります。
これらの状態を正確に把握しておくことは、その後の治療を成功させるためにとても大切です。
検査には主にプローブという専用の器具を用いて、歯ぐきの引き締まり具合、ポケットの深さ、出血や排(はい)膿(のう)の有無、プラークや歯石の付着部位、歯の揺れ、などについて調べます。また必要に応じて、レントゲンの撮影をさせていただいております。

この検査は治療の区切り区切りで行います。
治療により歯周病がどのくらい改善されたかなどを、その都度評価します。

2.治療計画の立案

検査結果を基に担当の歯科衛生士と歯科医師で治療計画を練ります。患者さんの訴えや要望を考慮したうえで治療計画を立て、その後説明させていただきます。

3.動機付けとプラークコントロール

生活している限り、口の中の細菌は増えていきます。口の中の健康を維持するためには日々のケアが非常に重要です。お一人お一人にあったコントロール法についてお話させていただきます。

4.プラーク・歯石の除去

歯周病の原因となるポケット内のプラークや歯石をスケーラーという器具を使用し、除去していきます。

5.フラップ治療

ポケットが深かったり、歯ぐきの上からでは器具が届きづらいところに感染を起こしている場合は、通常の治療では歯周病が治りきらないことがあります。
その場合に行うのがフラップ治療です。
歯ぐきを剥離はくりし取りきれていない歯石や汚れを除去します。この治療には部分麻酔が必要になります。

6.メインテナンス

治療後の検査で健康を取り戻したことが確認できたら、そこで一旦治療は終わりです。ここからは再び歯周病にかからぬよう、ご自身でのケア(セルフケア)に加え、歯科衛生士や歯科医師による専門的なケア(プロフェッショナルケア)をしていく事が重要です。

過去に歯周病を発症したということは、環境が戻れば再び歯周病を発症する可能性が高いです。そうならないためには、毎日のケアが必須です。ここからが新しいスタートです!私たちも全力でサポートさせていただきます。

歯周病は生活習慣病です。

歯周病は生活習慣が大きく関わっている病気です。私たちがどんなに手を尽くそうとも、患者さんご自身の協力なしには、治すことが難しい病気です。
ここまで色々とお話をさせていただきましたが、歯周病治療全体で考えたら私たちだけで出来ることはほんの一部なのです。
私たちが生きていく上で、一切細菌に触れずに生活していくことは不可能です。
もし歯周病が完治したとしても、その直後から再び口の中には細菌が増え始め、歯科医院でプラークを除去しても、次の日には新しくプラークが作られ始めているのです。
再び歯周病にかからないためには、これらの細菌が再び歯周病を起こすだけの力をつけてしまう前に取り除いていくことが必要です。
そのためには3ヶ月に一度の定期検診だけでは、とても間に合いません。歯みがきを中心としたセルフケアを毎日おこなうことで初めて、良いバランスを保つ事ができます。
治療にも予防にも一番大切なのが、実は毎日の歯ブラシだったのですね。

簡単!! だけど難しい!?

「歯ブラシするだけで良いなら簡単!」
そうなんです!歯周病の予防は簡潔明瞭なのです。
でも、それなのになぜ歯周病はこれほど蔓延しているのでしょうか?
なぜ世界一多い病気にまでなってしまったのでしょうか? 

これはあくまで私の考えですが、まず一つは「意外とセルフケアは難しい」ということが挙げられると思います。
歯の表面はしっかり磨けても、歯と歯の間や奥歯などは汚れを取る事が難しいです。ましてや歯並びが崩れていたりすれば、すべての汚れを取るのは至難の業です。
実際、歯周病やむし歯で来院される患者さんのほとんどの方は、毎日歯ブラシをされているのです。

それなのに病気になってしまう。
思っている以上に難しいのが、歯ブラシなのですね。
もう一つの理由は、「やる気が長続きしない」ということも関係しているのではないでしょうか。
歯科医院に行きセルフケアの重要性を知ったあなたは、きっと今まで以上に歯のケアに力を入れて取り組んでくれると信じています。しかし、そのやる気は日に日に下がります。そして数ヵ月後、いつの間にか以前と同じ方法に戻っていた・・・
そんな経験はありませんか?
様々な理由で、自分の身を削ってでも他を優先しなければならない事も多い現代です。そんな中ではセルフケアの優先順位は下がってしまいますよね。そうでなくともやる気をずっと維持し続けるのはとても難しいことです。
これ以外にも前述したとおり、喫煙や食生活などの生活習慣、ストレスや全身の病気など様々な因子が関係しており、時にはそれらの改善も必要になるのが歯周病です。
こんな風に自分でも予防ができる病気ですが、それ故、健康な状態を維持することが難しい病気なのだと実感しています。

だからこそ、定期検診!

生涯にわたりお口の健康を守り続けていくのは、まさに自分との戦いです。
セルフケアが大変だとしても、一生続けていかなければならないのです。
それは、自分の体のこととはいえ大変なことかもしれません。
私たちは定期検診を通じて、そのサポートが少しでも出来たらと考えております。
自分では気付かない磨き残しや新しくついた歯石は、この時しっかり取らせていただきます。
また患者さん一人ひとり、セルフケアにも癖が出てきます。ご自身では気付きにくいことですので、それについてのアドバイスもさせていただきます。
定期検診という目標があることで、一度やる気が下がっていたとしても、その日が迫ってくるとせめて前日だけはしっかり磨こうという気が芽生えます。たったそれだけでも、5年、10年そのままにしておくよりはよっぽど良いことです。
そして不思議なことに一度検診に来ていただくと、そこでまたやる気が復活するのです。やる気が落ちかけたところで、また引きあがり、でもまた落ちて、また上がる。。。
残念ながら予防に関して私たちに出来る事は限られていますが、そんな風に皆さんのサポートをさせていただければと願っております。